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■おかしな東京住宅事情シリーズ<第一弾>
東京都アフォーダブル住宅ファンド投資計画についての渦的試行 ーまとめー
最後に今までの思考&試行のまとめをしたいと思います。
今回の「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」は、行き過ぎた東京住宅市場に対して、自治体が「アフォーダブル住宅」という言葉を前面に出し、民間資本を組み込みながら実験的なスキームに踏み出したという点で、評価すべき第一歩です。子育て世帯を対象とし、原則45㎡以上の住戸を想定したファミリー向けの施策である点も、従来の低所得者など住宅確保が難しい層を対象としてきた短期的・セーフティネット型の支援とは異なる方向性を示していると言えます。

一方で、都100億円で約300戸という規模に単純平均すると、“都1億円あたりアフォーダブル住戸3戸・約50年分の家賃差額を前払いしているのとほぼ同じ構造”になります。これは、制度上は「ファンド」と呼ばれているものの、経済的実態としては長期の家賃補助=補助金に近い性格を持つことを意味しています。純粋なアフォーダブル住戸のみを対象とする場合、都の出資分はほぼ元本ごと差額家賃に溶けてしまい、「エクイティ出資」としての回収可能性は乏しいと思われます。
これに対し、本稿で示した簡易シミュレーションでは、“都1億円+民間1億円を用い、民間利回り5%を維持しつつ、都の利回りを0〜1%程度に抑える「エクイティ方式」を採用するなら、アフォーダブル住戸6〜8戸程度まで拡大できる可能性”が示されました。その場合、例えばアフォーダブル住戸8戸・市場家賃住戸27戸といったミックス・インカム構成となり、アフォーダブル比率は20%前後となります。これはアメリカのミックス・インカム住宅やインクルージョナリー・ゾーニングにおける“アフォーダブル比率=約20%”と近似しており、ミックス・インカム型に設計することで初めて「出資=エクイティ」としての整合性が生まれることを示しています。
逆にいえば、“市場家賃住戸を含まない純粋なアフォーダブル住宅事業では、都の出資は事実上「補助金」扱い”となります。それ自体は悪いわけではありませんが、出資と称しつつ元本が実質的に償却されるのであればファンドとしてはどうなのでしょうか。そして、ファンドと謳っている以上は本当の意味でファンド的有効活用ができるかどうかが肝になってくるのではないでしょうか。従来の住宅補助金はお金が出ていくだけで対処療法的な解決にしかならないイメージですが、ファンド利用で出資したお金をもとに運用還元していけば持続可能なアフォーダブル住宅供給事業として期待が持てます。
まだ実行前で読み取れる資料が少なく上記の視点はあくまで推測になりますが、このファンドがどのように展開し効果を生み出していくのか、これからも注視していきたいと思います。
この今のおかしな東京の住宅市場に都の新たなファンド施策が何らかしらよい影響を与える事ができるか否か。市場優先のマネーゲームを促進せず「必要な人に必要なアフォーダブル住宅を!」でお願いします。
以上渦的試行でした。
また、東京の住宅地について思考していきたいと思います。
おかしな東京住宅事情シリーズ<第一弾><完>
■おかしな東京住宅事情シリーズ<第一弾>
東京都アフォーダブル住宅ファンド投資計画についての渦的試行 ーその3ー
次にこれらの公表情報から読み取れる内容で独自に実効性をシュミレーションしてみたいと思います。
1. 公表情報から読み取れるポイント
上記の情報から、現時点で確認できるのは概ね次の点です。
1)対象は「賃貸住宅」であり、集合住宅(マンション)も戸建て等も含む。
2)入居世帯は「子育て世帯等」に限定されるが、具体的な所得制限の水準・判定方法はまだ明確ではない。
3)家賃は「ファンドの運用益のみで補填する」というよりも、東京都の出資分の想定利回りを民間出資分より低くすることで、ファンド全体の必要利回りを引き下げ、結果としてアフォーダブルな家賃水準を実現するスキームである。
特に3)について公開資料を読む限り、仕組みは以下のように整理できます。
・都と民間がファンド(LPS)を組成し、賃貸住宅を取得・整備する。
・東京都の出資については、民間より低い想定利回り(リターン)を設定。
その結果、ファンド全体として必要とされる利回り水準が下がるため、アフォーダブル住戸の家賃を市場家賃より2割程度低く設定しても、事業として成立させることが可能。
2. 都出資「1億円」をめぐるシミュレーション
東京都が100億円の出資により、約300戸のアフォーダブル住宅供給を目指すと、単純平均で都1億円あたりアフォーダブル住戸約3戸になります。そこで、家賃補助の構造を理解するため、簡略化したモデルで計算してみます。
2-1. 前提条件による計算
<前提条件>
・都出資:1億円 ・民間出資:1億円
・合計:2億円(ただし物件全体では追加の借入・エクイティがあると仮定)
・市場家賃(民間家賃):15万円/月 ・アフォーダブル家賃:10万円/月 ・家賃差額:5万円/月(=年間60万円/戸)
・民間投資家の必要利回り:年5%
・東京都の利回り:0%(都は配当を要求しないと仮定) ・期間:50年(家賃差額を50年間維持すると仮定)
・既存住宅に投資するため建設費は0とみなし、取得費や借入等は別途
アフォーダブル住戸1戸あたり、50年間の家賃ギャップは次の通りです。
(15万円ー10万円)×12か月×50年=5万円×600=3,000万円/戸(50年)
都の出資1億円をすべてこの差額補填に充てるとすると、
1億円÷3,000万円 ≒3.3戸 より、3戸分のアフォーダブル住戸を50年間カバーできます。
2-2. 30戸(市場27+アフォーダブル3)のミックスト・インカム住宅のケース
仮に1億円の都出資に対し、次のような1棟内の戸数構成を考えてみます。 ・市場家賃住戸:15万円/月 → 27戸
・アフォーダブル住戸:10万円/月 → 3戸
・合計:30戸
・期間:50年(上記の仮定に合わせる)
事業者から見る実際のキャッシュフローは以下の通りです。
◆アフォーダブル住戸3戸:入居者負担 10万+都補填 5万=実質15万円/月
したがって、全30戸とも「15万円/月相当の収益力」を持つことになります。
1戸あたりの実収入(事業者目線)は
15万円×12か月=180万円/年
30戸分の年間実収入は、
180万円×30戸=5,400万円/年
50年間の総収入は
5,400万円×50年間=27億円
このうち、入居者からの支払いは
27戸×15万円+3戸×10万円=(27×15+3×10)×12カ月=4,350万円/年
都の補填分は、
3戸×(5万円×12カ月)=180万円/年
であり、50年間では、 180万円 ×50年=
9,000万円≃1億円
となります。 つまり、都の1億円は50年かけてほぼすべて家賃差額に「溶ける」構造です。

2-3. 民間利回り5%との整合性
年間実収入5,400万円が「不動産全体として年5%の利回り」に対応すると仮定すると、物件価値(投下資本総額)は、
\[V = \frac{年間収入}{利回り}= \frac{5,400万円}{0.05}=10億8,000万円
\] となります。
このうち、
・東京都出資:1億円
・民間出資:1億円
・残り約8.8億円:追加のエクイティや借入等で賄われている(イメージ)
このモデルにおいて、
1)都の1億円を完全に差額補填に充当する場合(長期家賃補助と同等扱い)
・50年後、都の1億円は完全に家賃補助として「蒸発」し元本は戻ってこない。 ・
アフォーダブル住戸3戸を50年維持できるが、都出資は経済的には純粋な補助金に近い性格を持つ。
2)都の1億円を利回りを抑えたエクイティとし元本は維持する場合
・民間利回り5%に対し都の名目利回りを3%・1%・0%などに抑えると、その「我慢分」(5%との差)が年間の家賃ギャップ補填原資となる。
・都出資1億円に対して、各ケースで補填原資とカバーできる戸数は以下の表。
| ケース |
都の名目利回り |
我慢分(=補助に回る分) |
カバーできるアフォ戸数
|
| A |
3% |
2,000,000円/年 |
約3.3戸 |
| B |
1% |
4,000,000円/年 |
約6.7戸 |
| C |
0% |
5,000,000円/年 |
約8.3戸 |
※ギャップ60万円/戸・年で計算。アフォーダブル住戸はアフォ住戸と表記
つまり、都利回り3%はアフォ住戸が約3戸、都利回り1%はアフォ住戸が約6〜7戸、都利回り0%はアフォ住戸が約8戸程度都1億円で持続的に支えられる上限となります。
この場合、例えば住宅1棟の住戸構成をアフォーダブル8戸・市場27戸(合計35戸)とすれば、アフォ住戸比率は全体の約20%強となります。これはアメリカのミックス・インカム住宅等における、アフォーダブル住戸比率20%前後の一般的な水準と近似しており、ミックス・インカム型で初めて「エクイティ方式」が現実的なスキームとして成立することを示唆しています。
一方で、市場家賃住戸を含まない「純アフォーダブル住宅」の場合、十分な利回りを生む余地が小さいため、都出資は元本自体を家賃ギャップに充当する補助金的性格を免れないと考えられます。
<最後
ーまとめーへつづく>
■おかしな東京住宅事情シリーズ<第一弾>
東京都アフォーダブル住宅ファンド投資計画についての渦的試行 ーその2ー
それでは、さっそく見ていきましょう。
東京都が子育てに適した民間アフォーダブル住宅供給に対し、官民連携のファンド投資を行う計画を発表しました。以下、その概要と制度設計上の論点を整理します。
1. 制度の名称と目的
名称「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」。「子育て世帯等が住みやすいアフォーダブルな住宅を供給するため、民間活力を活用してファンドを組成する」とし、子育て世帯等向けアフォーダブル賃貸住宅供給が目的。
※ここでいうアフォーダブル住宅とは、「周辺の市場家賃と比較して低廉な 家賃で居住できる住宅」の総称。
2. 東京都の出資額とファンド規模
東京都は本ファンドに合計100億円を出資することを明記。この100億円に加え、同額以上の民間出資を組み合わせることで、総額200億円以上のファンド規模とすることを目標とする。
3. ファンドの仕組み
募集要項によれば、本ファンドは新設される投資事業有限責任組合(LPS)および、そのLPSが賃貸住宅用不動産に投資するために組成するビークルを基本構造とする。東京都と民間がLPSに出資し、そのファンドが賃貸住宅用不動産(新築、空き家、中古住宅等)に投資する。その運用収益を前提として、アフォーダブル住宅の賃料を周辺相場より低く設定するスキーム。
※ビークルとは資産と投資家を結ぶ機能を担う組織体のこと。
4. 賃料水準・家賃の考え方
東京都の資料を踏まえた解説記事等によれば、アフォーダブル住宅の賃料は「近傍同種の賃貸住宅の市場家賃の8割程度」を目安としている。

5. ファンド投資の最新状況(運営事業者の選定)
2025年11月時点で、東京都は本ファンドの運営事業者コンソーシアムを選定したと報じられている。報道によれば、以下の4グループが選定。
▽ SMBC信託銀行+萬富
・ 墨田区で子育て支援賃貸マンション「ネウボーノ」を展開する事業者と連携
・ 投資対象:新築マンション
・ 賃料水準:市場家賃の約80%程度
▽ 野村不動産+野村不動産投資顧問+京王電鉄(共同出資者)
・ 野村不動産が民間出資、野村不動産投資顧問が運用を担当し、京王電鉄も共 同出資者として参画
・ 投資対象:主として新築マンション
・ 賃料水準:市場家賃の約80%程度
▽三菱UFJ信託銀行+ヤモリ
・ 中古戸建ての空き家を活用し賃貸住宅として供給する事業
・ 賃料水準:市場家賃の約80%程度
▽りそな不動産投資顧問+マックスリアルティー+LivEQuality大家さん
・ LivEQuality大家さんは名古屋市でシングルマザー向けアフォーダブル住宅 を供給している事業者でそのノウハウを活用
・ 投資対象:既存・新築マンション等
・ 賃料水準:市場家賃の約75%程度
東京都は2025年度内にこれら4つのコンソーシアムと契約を締結し、合計100億円を出資する予定。
6. 供給戸数・入居対象・住宅規模(現時点の公表情報)
・ 都からの100億円出資と民間出資を合わせ、約300戸のアフォーダブル住宅を供給する見込み
・ 入居対象は、「18歳未満の子を養育する子育て世帯」等と明記
・ ひとり親世帯など世帯人数の少ない世帯を除き、原則45㎡以上の住戸
7. 供給開始時期
アフォーダブル住宅の提供開始は、2026年度を予定。
以上が公表された情報です。
<その3>でその実効性について独自にシュミレーションしてみたいと思います。
<
ーその3ーへつづく>
■おかしな東京住宅事情シリーズ<第一弾>
東京都アフォーダブル住宅ファンド投資計画についての渦的試行 ーその1ー
いよいよ今年も師走になりました。今年最後に気になる住宅政策ニュースがあったので思考&試行してみようと思います。
近年都心では、再開発で新規に建てられた分譲マンション等で一戸50億の値をつける物件が現れています。一戸50億!?って、ちょっとした商業ビルやマンションがまるまる一棟建てられる金額です。都心の一等地なんでしょうけど、
いったいどんな設備でどんな材料を使っているのでしょう。(大体フツーのメーカーの使ってます…)
また、投資目的の住宅購入(特にマンション)の増加や、土地や建設費の高騰などの要因が加わり、一戸4,5億円する物件も珍しくなくなってきています。そして今や東京23区のマンション平均価格は一億円を優に超えています。(億です。無理です。)
実需で住宅購入を希望する人たちにとって、もはや都心でマンションを購入できる状況にない、またはかなりきつい返済条件(ペアローンや50年ローン)で購入せざる負えない状況になっています。また、このあおり(便乗?)をうけ賃貸物件も家賃が値上がりしています。
本当に住まいを必要としている人々が希望する場所で住宅を取得できず、マネーゲームのような無法地帯化する東京23区の住宅市場はおかしいとしか言いようがありません。さらに自治体が加担しているところも痛いです。

そういった行き過ぎた住宅事情をふまえ、東京都が来年度に向け新たな子育て世帯向けのアフォーダブル賃貸住宅支援を発表しました。都も今まで使ってきていない「アフォーダブル」という言葉をとうとう使ってきましたね。 ここでいうアフォーダブル住宅とは、「周辺の市場家賃と比較して低廉な家賃で居住できる住宅」の総称でアメリカ的表現です。
もともと、全国で国交省が推進する住宅セーフティネット制度という子育て世帯等住宅確保要配慮者への住宅支援制度があり、東京都でも「東京ささエール住宅」という名でこの事業をおこなっていますが、今回の住宅支援がセーフティネット制度とどう違い、アフォーダブル住宅供給手法としてどれくらい効果的なのかをみていきたいと思います。
<ーその2ーへつづく>
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