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2023年3月6日

杉並建築展2023「それぞれの環境」

2月25日(土)からはじまった杉並建築展が昨日無事終了しました。 ご来場してくださった皆さま、ありがとうございました。今回の建築展のテーマは「それぞれの環境」でした。出展者は弊社も含めて16組で、公園の遊具から住宅、工場とそれぞれの作品が出展されました。


杉並建築展2023


メタボルテックスアーキテクツの出展作品

そこで、今回の建築展のテーマにちなんで環境と建築について書いてみます。
突然ですが、みなさんはアメリカを旅行したときに、レストランの入口に貼られた「A」や「B」などのアルファベットを見かけたことがありますか? 私たちが以前住んでいたロサンゼルスのレストランの入口にもこのアルファベット文字が記載された紙が貼られていました。この「A」や「B」のアルファベットは、飲食店などを対象とした衛生度のランク付け、Restaurant Letter Grading Systemの等級で、飲食店の食品衛生基準の順守の程度を「A(優)」、「B(良)」、「C(可)」で表しています。年に1度、検査員による抜き打ち検査で厨房やトイレを細かくチェックされ等級が決まります。そして、その等級を必ず店先に掲示することが義務づけられています。利用者はその等級を判断材料に店を利用するか否かを考えるわけです。食中毒事故が多いアメリカならではの食の安全を可視化した等級制度です。

これと似たランク付けが最近、アメリカ・ニューヨーク市で大型建物を対象に始まりました。市は「Building Energy Efficiency Rate」といわれるシステムによって、市内の建物のエネルギー効率を「A」から「D」で評価することにしたのです。建物のエネルギー効率の最もよい評価が「A」で次に「B」>「C」>「D」となります。2019年にニューヨーク市は市内の建物から排出される二酸化炭素量を2050年までに80%削減する目標をたて「Climate Mobilization Act」(気候変動対応法)を採決。そしてこの目標達成のために、「Building Energy Efficiency Rate」で市内の建物のエネルギー効率を評価し、効率の悪い建物には太陽光パネルを導入したり、断熱性を上げる窓ガラスに交換したりと、エネルギー効率のよい建物へ改修する努力を課しています。注目すべきは飲食店同様、その等級とスコアを建物の入口に人目につくよう掲示する義務があることです。公に等級と点数を公表させることで、脱炭素に向け建物のオーナーに自主的な取り組みを促す目的があるそうです。建物の環境への負荷を可視化した等級制度です。

そもそもなぜ、ニューヨーク市がこのような政策に打って出たかというと、市全体の年間二酸化炭素排出量の3分の2が建物からの排出量によって占められているからです。ニューヨークには1900年代初頭に建てられたビルをはじめ、築年数が古い高層ビルが多く建っています。その多くはまだ地球温暖化に対する環境意識が低かった時代に設計されたもので、老朽化も相まって省エネ効率が悪く、エネルギーを多く浪費していると評価されています。建設当時、最新のデザインと技術をもって建てられた数々の建物が今、環境に負荷を与える大きな課題となっています。 そのニューヨークで、日本のような老朽化を理由に建物を壊し、また新しい建物を建て直すスクラップアンドビルド方式ではなく、老朽化した建物の価値や良さを残しながら、改修、更新していく方法をとって成功している事例があります。

ここで、象徴的なアールデコデザインで、数々の映画にも出てくる歴史的建造物「エンパイアステートビル」を紹介します。 1931年竣工の102階建て高層ビル「エンパイアステートビル」は老朽化が進む高層ビルでしたが、2009年から日本円で約600億円をかけ大規模なサステナブル改修工事を行い、既存照明をエネルギー効率に優れたアールデコ調の照明器具に交換、窓ガラス1枚1枚を新素材の3層熱ガラスにするなど、最先端技術を導入しながらビルを更新し、エネルギー使用量を大幅に削減することに成功しました。またその取り組みが評価され環境性能評価システム「LEED」でゴールドを獲得しています。

このエンパイアステートビルの取り組みは、多くの困難を生じる大規模建築改修の成功事例として評価できます。また、アメリカにはこういった試みを金銭的に支援する環境団体があり、公的資金に頼らずに改修を実現する推進力となっています。 建設・解体から大量に排出される建設廃棄物の環境への負荷はかなり大きなものです。 老朽化とひとくくりせず、建物の持つ価値を見極め、さまざまなアイデアや技術を用いてその時の環境や社会状況に合わせて建物を更新していくことの大切さを、建築展を通じて皆さんと共有できたらと思います。

来年度も建築展を開催する予定です。お楽しみに。

詳しくはこちら→ 杉並建築展2023

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